てんかん研究
成人てんかんの病態解明と治療法の開発
- 既存のてんかん薬を複数用いても難治性に経過する症例がてんかん全体の約30%にのぼる。これはひとえに、てんかんは遺伝子レベルの解析が遅れており分子病態に基づく治療ができていないためである。
- 我々は未だ未特定の成人てんかんの原因遺伝子を特定し、その遺伝子変異の培養細胞モデルや遺伝子改変動物を作成するなどして、てんかんの病態を解明して根治療法の開発を目指したい。
側頭葉てんかん・海馬硬化症
- 側頭葉てんかんはてんかん全体の2~3割と報告されており、最も頻度の高いてんかん症候群である。その中でも海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんは9割が難治性である。
- 思春期以前に発症する海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんは熱性痙攣と関連することが多い。
- 臨床症状 ①→②→③と症状が進展する
- ① 前兆(単純部分発作):持続時間数10秒間程度
epigastric aura(こみあげるような感じ)、déjà-vu(既視感)など - ② 複雑部分発作(意識減損発作):持続時間数分間程度
ぼんやりして一点を凝視したり、動作が停止する。
口をモゴモゴしたり舌打ちをする、手をモゾモゾさせる等の自動症を伴うこともある。 - ③ 二次性全般化強直間代発作:98%は2分間以内
全身痙攣発作
- ① 前兆(単純部分発作):持続時間数10秒間程度
- 中高年以降に発症する側頭葉てんかんの原因としての海馬硬化症は近年増加傾向にあるが原因に関しては不明なものが多く、我々はその原因についての研究を行っている。
- 全身性エリテマトーデスに合併するてんかんは内側側頭葉てんかんが多いことを報告した。
Toyota T. et al., Mesial temporal lobe epilepsy as a neuropsychiatric syndrome of systemic lupus erythematosus. Epilepsia 54(3):e33–e36, 2013. - 中高年以降に発症する内側側頭葉てんかんの一因として再発性の辺縁系脳炎があることを報告した。
Toyota T. et al., Limbic Encephalitis Associated with Anti-Voltage-Gated Potassium Channel Complex Antibodies as a Cause of Adult-Onset Mesial Temporal Lobe Epilepsy. J UOEH 36(2): 129-133, 2014.
高齢者とてんかん
- 日本の高齢者人口(65歳以上)は2013年9月の時点で3,186万人であり高齢化率は25%に達した。これは世界で最も高い高齢化率である。
- 産業医科大学が存在する北九州市は高齢化率が最も高い政令指定都市であり、世界における高齢化社会モデルと考えられる。
- てんかんの発病率は60歳を超えると急激に増加し、全年齢層において高齢者での発病率が最も高い。
- 今後高齢者のてんかんはより重要性が高まると考えられる。
- 世界に先駆けた高齢化社会としての北九州市における新規高齢者発症てんかんの実態を調査した。
産業医科大学神経内科の新規高齢発症てんかん
対象:2005年4月から2011年12月までの間に当科受診歴のある高齢発症てんかん
(65歳以上の新規発症例)
外来患者・入院患者ともに含む
全112例 : 男性 58例、女性 54例
平均発症年齢: 73.5 ± 6.7歳
発作間欠期てんかん性放電出現率: 73 %
Toyota T, Adachi H, et al., 投稿中
良性成人型ミオクローヌスてんかん BAFME
- ミオクローヌスもしくはミオクロニー発作、頻度の低い全般性強直間代発作、常染色体優性遺伝形式をとるてんかん症候群である。
- 本来良性とされてきた疾患であるが人口の高齢化、寿命の延長により高齢になって重症化・難治化する例もある。
- 高齢化の進行に伴い今後重要性が高まっていく疾患であると考えられる。
- 我々は発作間欠期の脳波所見の特徴を明らかにした。
- 12家系19例のBAFME患者のうち14例において
- 全般性(多)棘徐波複合を認めその周波数が全般性強直間代発作のみを認める全般てんかん(EGTCS)よりも有意に速い。
- BAFME群 4.3 ± 1.0 Hz (n = 14)
- EGTCS群 3.1 ± 1.3Hz (n = 10) P値=0.008
- 光刺激時に光突発反応を高率に認める 19例中18例 (95 %)
Toyota T. et al., Electroencephalographic features of benign adult familial myoclonic epilepsy. Clin Neurophysiol. 125(2):250-254, 2014